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幼い頃の曖昧な記憶は無性に体を冷やし、その動きを鈍らせる。
漠然とした虚脱感に包まれるような感覚だけが頭に残り、俺はまたため息を吐き出すのだ。
重い体をやっとのことで起こし立ち上がると、部屋のカーテンに手をかける。
入り込むキラキラとした光は否応がなく俺の瞼を細くした。
基本的に朝の陽ざしという物はあまり得意でない。
その暖かく柔らかなそれは自分とはおよそかけ離れた物であり、どうしても好きになれなかった。
……と、よくわからない理屈をごねたが本当はただ一日の始まりの象徴であるそれが嫌なだけなんだろう。
昨日炊いておいた冷や飯の入ったどんぶりに、これまた昨日作っておいた味噌汁を適当にザブザブと注ぐ。
それを電子レンジという文明の利器の力を借りて温める……見事本日の朝食の完成である。
流し込むようにそれを口いっぱいにかき込み、空になったどんぶりを洗う。
顔を洗い、歯を磨き、寝癖を整え、そして着たくもないが一応制服に袖を通す。
トイレに行き、教科書などが入ったバックを手に取る。
何ら変わり映えしない日常の行動。ただ少し違ったことがあった。
左腕に付けた安物のデジタル時計がそれを示していた。
――普段よりも5分ほど時間に余裕があった。
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