きのこ

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右足の小指の爪の間からきのこが生えてきた。 いや、冗談じゃないんだ。聞いてくれ。頼むから帰らないで聞いてくれ。 君が昨日の夜から仕事に追われて、食事をとる暇さえないほど忙しかったことは知っている。 こんなところに呼び出して、悪かったと思っている。町を見下ろす高層ビルの最上階の高級レストランにわざわざ呼び出してするような話ではないことも理解しているつもりだ。 まぁ、そんな顔をしないで。僕ないたって正常だ。 ほら、お腹が減っているだろ。電話で愚痴っていたじゃないか。食べながらでいいから最後まで聞いてくれ。この店の冷製パスタは君も好物だろ。 ふぅ。 話を戻そう。君は冗談だと感じただろう。それか、何かの見間違いだと思ったんじゃないか。 しかしね、もし君なら右足の小指の爪と赤と青の斑点の浮き出た妙な形のきのこを別の何かと見間違えるはずがないだろう。 ……悪かった、頼むからすねを蹴らないでくれ。食事前にする話じゃなかった。 でも僕の気持ちも察してくれ。 もし君の右足の小指の爪の間から、赤と青の斑点の浮き出た妙な形をしたきのこが生えてきたら――どうする。 ……悪かった、頼むから殴らないでくれ。君の素足はいつも、誰よりも清潔だということは知っているつもりだよ。 あくまで仮にの話だよ仮に。現実ではなく、仮にの話。 いや、でも僕の右足の小指の爪の間から赤と青の斑点の浮き出た妙な形のきのこが生えてきたことは本当なんだ。 別に不潔にしていたわけではない。毎晩シャワーを浴びていたし、靴下は必ず洗って毎日取り替えているし、靴だってシューズキーパーに収めて悪臭がしないようにしている。きっとそんじょそこらのくたびれた社会人なんかよりはよっぽど清潔だという自信がある。 それでも、今朝目を覚ましたら生えてきていたんだ。僕の右足の小指の爪の間から赤と青の斑点の浮き出た妙な形のきのこが……。 夢なんかじゃない。確かに僕は朝起きるのがひどく苦手で、たまに君が心配して僕のラボまで起こしに来てくれていることは、しっかりと理解している。いくら感謝しても足りないぐらいだ。ありがとう。 ……なんで少し顔を赤らめる。そして殴る。 少し暴力的なところは君の欠点だ。ほら、袖にソースが付いたぞ。何で暑い中そんな長袖なんか着てるんだ。 ふぅ。
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