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   最初の手紙が届いてから二ヶ月が経った。この手紙が着くまで、前に五通来たっけ。実家に届く度にお袋がこっちに送ってくれるようになった。  どれもこれも相変わらず汚い字が並び、とても俺以外に見せられるような内容ではなかった。この頃も相当ませていたのではないだろうか。さり気なく二着だったことを自慢している。 「りっちゃん聞いてるー?」 「ん、ごめんごめん。何?」  俺の部屋の窓から、秋色に染まっりつつある木々が見える。見ていた紙をさっと隠し、机の上に差し出されたチラシに視線を移した。 「一ヵ月後なんだけど、予定空いてるかな?」  見るとそれは、朝子の通う美大の文化祭宣伝のチラシだった。 「あぁ、この日なら今のところ大丈夫だよ」 「そう、良かったー。年に一度だから、私も気合入れて絵描いたんだよ。展示会一緒に見に行こう」 「分かった、楽しみにしてるよ」  そう言うと朝子は柔らかく微笑んだ。俺も自然と頬が緩む。 「……りっちゃんは笑ってる方が素敵だよ」 「え……?」  笑った顔を褒められたのは初めてだった。 「最近寂しそうな顔してたから。ちょっと気になったの」 「そう……か…………」  どうやら知らず知らずのうちに、彼女に心配させていたらしい。それをあえて聞かずに一緒に居てくれたんだということに気が付き、改めて彼女の優しさが胸に染み渡った。 「あ、そうだ。私の友達がね、当日たこ焼き丼売るんだって」 「何だよたこ焼き丼って」 「一緒に食べに行こうよ」 「えー嫌だよ」 「何でー? きっと美味しいよー」 「朝子だけ食べれば良いじゃん」 「りっちゃんも道連れね」 「何でだよー」  えくぼを浮かべるぷにっとした頬は、俺の指によって突かれくすぐったそうにする朝子の頭を撫でてやった。  一ヵ月後。もうすぐあの日だ。秋の夕暮れが、その日の訪れを物語っていた。  
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