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  「あばたもえくぼじゃないけどさ、アサちゃんすごい飲むのね」 「アサちゃんって何だよ。てか、何で朝子が酒豪なの知ってるの」  この前あんたの部屋の前にいた時に声かけたのよ、と俺の大嫌いなそれをふかしながら、古手川は感心したように話し始めた。夜、朝子が帰った後、買ったばかりのパソコンの扱い方が分からないと言われ、俺は再び隣人の部屋に連れ込まれた。古手川は椅子にだらしなく座り、右手の指には煙の上がった煙草があった。 「私あんまお酒強くないんだけど、ちょっと精神的に参ってた時付き合ってもらったの」 「何勝手に人の彼女連れ回してんですか」 「ちょっとのつもりで缶ビール出したんだけど、二、三本余裕で飲み干しちゃってさ」  人の意見は総無視で話し続ける古手川。俺はこいつがデジカメで撮影した写真を、パソコンに繋いで編集出来るように設定している。古手川の趣味は写真だと聞いたのがつい先日。不似合いな趣味をお持ちで、なんて言ったら右ストレートをくらった。 「そういや珍しく酒臭い時あったような……」 「あたしビックリしちゃってさ。あの子煙草駄目って言ってたけど、あたしと一緒に居ても嫌な顔ひとつしないでぐいぐいいってたわ」  煙草嫌いな酒豪と、酒が苦手なヘビースモーカー。ふにっとした肉つきと、とにかくほっそりした体系。常に笑顔で幸せそうな朝子と、世間に絶望した表情の古手川。  相反する二人が同じ場に居ることが全く想像できずに、俺はパソコンの設定を終了した。  
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