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「アサちゃん見てると、なんだか自分がちっぽけに思えちゃってさー……」
「そのアサちゃんって止めろよ。気分が悪い」
「良いじゃない、りっちゃん」
「それも止めろ、気持ち悪い」
「幸せそうだったなぁ」
俺の罵倒は何のひねりもなくストレートにシカトされ、古手川は寂しそうに呟いた。
「何であんた達はそんなに幸せそうなの」
「は……? 何でって……」
力なく指に挟まれた煙草から、灰色が重力に委ねられ無気力にほろっと舞い散る。古手川は黙ってそれを見ていた。
「あたしにもそんな時期あったわよ。この指輪はね、その時の彼がくれたの」
緩くはめられた指輪をかざす。そのシルバーリングは、鈍く蛍光灯に照らされ、くすんだ過去を彷彿とさせた。
「どうしていなくなったりしたのかしら……。私の何がいけなかったのよ……」
俺の手が、机に乗せられたキーボードに触れる。無機的なそれに、俺の精力が奪われる感覚に陥った。
「この先どんなにカッコイイ人が現れても、彼以上愛せる自信なんてない……」
古手川の顔が歪む。濃いまつげの間から、じんわり滴る透明な悲しみ。やがてそこから滑り落ち、真っ赤に塗られた口元へ辿り着いた。
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