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「りっちゃん、お帰りなさい」
「あ……、ただいま、朝子」
夕方。自宅マンションに着くと居間で待っていたのは、近くの美大に通っている同い年の彼女。黒髪の柔らかいボブヘアーにふわふわのワンピースがよく似合う。
「わざわざ待っててくれたのか。お土産何もないけど……」
「別にお土産待ってたわけじゃないよ、りっちゃんのことを待ってたんだ」
サラッとそう言いながら、彼女が台所から持ってきた皿の上には冷やし中華が。
「勝手に台所借りちゃってごめんね。晩御飯まだだよね」
「あ、ありがとう。助かるよ」
見ただけで冷やりとした感覚に触れる。一気に涼しげな空気が、部屋いっぱいに広がった。
「今日も暑かったねー」
「悪い、暑い中こんなことさせて」
「そんなこと言わないで。麺は茹でただけだし、トッピングは切って並べただけだもの」
朝子はニコニコしながら椅子にかける。今の俺に似つかない幸せそうな笑顔だった。
「……そっか」
「うん」
「……いただきます」
「いただきます」
ちゅるると麺をすする姿が何よりも愛らしかった。
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