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彼女を寮まで送り届け、家に着く頃には夜十時を回っていた。玄関の前で鍵を探そうと、ポケットに手を突っ込んだ。
「お帰りー、りっちゃん」
「その名で呼ぶな、古手川」
「可愛い彼女ねー、羨ましいなー」
「うるさいよ」
隣のドアから顔だけを出して気安く俺を呼んだ古手川は、ニヤニヤしながらこちらを見つめる。そのねっとりとした視線は、俺を掴んで放さないような雰囲気を醸していた。
「悪いんだけどさー、ちょっと部屋の片付け手伝ってくんない?」
「嫌だ」
鍵を開け、俺はそそくさと中に入り扉を閉める。
と、閉まるギリギリのところで赤い爪の手が扉を止めた。
「ちょっと、お姉さんが頼んでいるじゃない」
「何だよもう……」
近所迷惑になるのを避けるため、仕方なく俺は古手川の要求に従うことにした。
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