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ある日夜中に見たテレビ。深夜放送らしい、たくさんの芸人が出演している番組だった。
当時はまだ今ほどお笑い番組がなくて、あたし自身お笑い芸人に対する知識もなかった。
仕事を終えて疲れて帰って、他におもしろそうな番組もなくて、ただ何気なく見ていた。
ふと一人の芸人が目に入った。
特に目立つわけでもなかったけど、なぜか目をひいた。
今思えば、一目惚れだったのかもしれない。
次の週から気をつけてその番組を見るようになったが、レギュラーではなかったらしく、出ない週が何週間か続いた。
彼の名前を知ったのは、それから数ヶ月経ってからだった。
当時の職場の友達にお笑いが好きな子がいて、彼の話をしたら、近くの劇場へ出てるからと、ライブへ連れて行ってくれる事になった。
ライブ当日、朝から楽しみで仕方なかった。
友達の話では、芸人さんの機嫌がよければ、一緒に写真を撮って貰えるという事だったので、張り切ってカメラも持参していた。
友達に「写真だけだと失礼だから、手紙位書けば?」
と言われてライブ前に慌てて書いた。
『頑張ってください』
程度の簡単な文章。
どうせ返事はこないだろうから、住所は書かなかった。
そのかわり、小さくメールアドレスを書いていた。
ライブが始まって、初めて間近で見る彼はやはり決して目立つわけではなかったけど、面白くて、なんだか年上とは思えない位かわいかった。
ライブが終わって、ファンの女の子が群がる中、彼が出てきた。
目の前に来たとき、思いきって声をかけてみた。機嫌がよかったのか、あっさり写真撮影に応じてくれた。
握手もしてもらって、お礼を言って、彼は歩き出した。
信号待ちで止まった彼が振り返った。
目が合った気がしたけど、気のせいだろうとおもった。
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