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約束の日までに何度か連絡があって、世間話をした。
かかってくるたびに緊張しているあたしに彼は『敬語使わなくていいよ』と言ってくれた。
約束の日、朝からずっと緊張していた。
先週まで普通にお金を払って、チケットを購入して見に行っていたのに。
その人と会う約束をしてるなんて、ウソみたいだった。
あたしの方が先に着いて、待っていると、真っ白なコートを着て、彼がやって来た。
一度しか顔を合わせていないのに、すぐに気付いてくれて、駆け寄って来た。
「ごめんな。電車乗り遅れて」
「いいえ」
緊張のあまり、声がうわずった。
「緊張してるん?」
「ちょっと…」
彼はにっこり笑って手を出した。
「ん」
「え?」
「手繋ごうや。そしたら緊張とけるかも」
差し出された手を繋いで歩き出した。
「なぁ、変な事聞くけど、どう?オレ」
「どうって?」
「テレビ見て好きになってくれたんやろ?多分全然違うで」
彼はプライベートとテレビのギャップを気にしているようだった。
あたしが『気にしない』と言うと、安心したと喜んでいた。
簡単に食事を済ませ、街を歩いていると、若い女の子があたし達をじっと見ていた。
どうやらファンの子らしい。
「ここやったら、ゆっくり話もできへん。ごめんな」
改めて芸能人なんだなぁと、彼の横顔を見ながら思った。
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