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その日、3歳の誕生日を迎えたばかりのエステルは父カシウスに連れられてボースの北に位置するハーケン門にやってきていた。
「ここで大人しくしてるんだぞ」
「うん。お父さん、早くようじを終わらせてきてね!」
元気よく返事を返す娘のエステルの頭を撫でたカシウスは一人、建物の中へと入っていく。
それを見送ったエステルは、途端に周りを見回した。
不安からではなく、大きな好奇心から。
カシウスの用事が終われば、ボースに買い物に行く約束をしているため、あまり遠くに行くべきではないことをエステルは知っているが、まだ幼い少女は、その大きな好奇心に勝てず歩き出していた。
目指したのはうっそうと茂る森の中。伝説のあの虫に似た何かを見かけた気がして。
「キミ、そこでなにをしているんだ!」
と、どのくらい時間がたったらろうか。突然の声に驚いてエステルは振り返った。
そこにいたのはアッシュブロンドの青年だった。腰に剣を下げ、その足元には黒髪の小さな男の子がいた。
「あ、あれ?」
いつの間にか森の奥へときていたことにやっと気が付いたエステルは、辺りを見回し、青年に視線を戻す。
「ここ、どこ?」
「迷子か?」
問いを問いで返され、エステルは素直に頷く。
「ハーメルの子じゃないから、リベールから迷い込んだんだな?」
この言葉にも頷いた。
青年は呆れた顔をしていたが、ついて来るように言う。
彼に隠れるように立っていた少年がその後に続いた。エステルも不思議に思いながらも付いていく。
暫くすると、父と別れた建物が目に見え始めた。
「あそこがリベールの入り口だ。俺たちは用がない限り越える事ができないから、後はあそこの兵士にでも送ってもらえ」
青年はそれだけ言うと、少年を連れて元来た道を戻り始めた。
そっけない姿にエステルは目をパチクリとさせていたが、
「ありがとう、お兄ちゃん!」
と、大きな声で礼を言う。
青年は片手を振り上げただけで振り返りもしなかったが、その足元にいた少年は、振り返ってニッコリと笑いかけたのだった。
まるで「よかったね」と言うかのように。
その後、エステルを探していた父カシウスに、少女は叱られたのだが、彼女は懲りずにまたいずれ探検をしようと心に決めたのだった。
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