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ぽたり
ぽたり
ぽたり
滴は空から舞い落ちる。
舗装などされておらぬ田舎の地に当たればじわりと染み込みその大地へと潤いを齎す。
灰色の空は地の者に告げた。雨はまだ降り止まぬ、と。
番傘を手に下駄を鳴らす薬売り、歩み歩んで歩んだ先に在るのは田舎に似つかぬ洋旅館。
白を基調とした外見に、朱で名を竹蜻蛉とし、ライトアップされたその姿は雨に淀む雰囲気の中で異彩を放っていた。
薬売りは考えた、今日はこの宿へと泊まろうかと。理由とすれば幾つかある。
先程天が告げていた雨はまだ降り止まぬ、という言葉。
深夜を越えてしまったと思われる時間。
そして、何よりに…背に背負う彼が、もう一人が…カタリと小さく、声を発したのである。
薬売りは薄く口角を上げその冷たく冷えた鉄の取っ手へと手を掛けた。
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