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キィ…、静かに開いた扉の先にあったのは酷い有様であった。
黄ばんでしまった白の壁、埃玉のこびり付いた深い青の絨毯。立派な外見に比べ、中身は大変貧相な物である。だが、男女が騒ぐ声は微かにしている、客は入っているのだろう。
「んな所で何してやがる」
不意に目の前に現れたのは男だった。
短く切られた髪に無精髭を生やしたヤクザの様な風貌をした彼は、白いシャツに黒のスーツを身に纏い赤いネクタイを締めていた。とは言ってもその姿は非常にだらしが無かった。
スーツのボタンは止められておらず、シャツのボタンも三つほど開いている。ネクタイは締めているというよりはぶら下がっているという表現の方があっていたかもしれない。
「貴方、は…?」
「俺は竹原信幸、このホテル…竹蜻蛉のオーナーだ、てめぇは誰だ?寧ろ何なんだ?」
彼はジロジロと舐め回す様に薬売りを見た。
恐らくに、肌の色、顔に施された鮮やかな化粧、紫色に染められた爪が…信幸に不気味だという印象を与えているのだろう。
「私は唯の薬売り…ですよ」
「ほぉ…薬売りねぇ…んな外見で良く薬が売れるな…」
彼の中での薬売りのイメージは晴れぬらしい、様々な所へと向かい薬を売るという者自体極端に少ないこの御時世では仕方のないのかもしれない。
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