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「で、ここには薬を売りに来たのか?んなもんなら間に合ってるからさっさと帰ってくれ、お前を化け物と見間違えて客が帰っちまいそうだ」
とても失礼な物言いだが、薬売りは表情一つ変えなかった。彼は口を開く。
「宿を、一晩…借りたく…」
「宿だぁ?」
信幸はあからさまに嫌そうな表情を浮かべる。これは先の会話で分かっていた事、彼は地の性格の所為もあり微動だにしなかった。
「さっきも言っただろ?てめぇを見たら他の客が逃げ帰っちまうって…泊まるんだったらまずにその薄気味悪ぃ化粧をどうにかしてくれよ」
この化粧をどうにかする事は出来ない。だが、今から他の宿を探すのも少々無理があるというもの。
ふと、女の声がした。
「あら、泊めて上げればいいじゃない」
自信に満ち溢れたその声は薬売りと信幸、二人の声だけが響いていたロビーへと響き渡り彼等の目線をそちらへと向かわせる。
多少の癖が付いた肩甲骨辺り迄の黒髪、満ち溢れる自信を宿した漆黒の瞳、赤が艶やかに咲く厚い口唇、陶器の様な白い肌に胸元、背中を大胆に露出した深紅を誇る膝上丈のAラインワンピース。そして、足首の細さを強調させるヒールの高い赤の洋靴。
彼女は人を引き付ける魅力を持っていた。
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