季節はずれの風物詩は自殺者の心を癒やす

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  「花火でもすっか!」  深夜のコンビニの駐車場の隅っこに座って、小腹を満たすためにカップラーメンをすすっている最中だった。カップの中から立ち上(のぼ)る白い蒸気が、空気に溶け込みながらやがて消えていく。だんだんと寒さが引いてきた、春の始めの季節。  突発的な提案。季節はずれの花火をしようという、ありふれているのかいないのか、それはともかく予想外の言葉ではあった。思わず飲み込んでしまったラーメンの麺が、窮屈(きゅうくつ)そうに喉の奥へと落ち込んでいく。 「本気か?」  飲み込んだ後で、いったん間を置いてから俺は問い掛けた。横に座っている健太はすすっている最中だったカップ麺から目を離し、こちらに向き直ってから一言「もち」、と頷いた。  「もち」とは勿論の略語ともいえる低俗な言葉であり、それを聞いた俺も 「まあ、ええけど」  と、言葉を返した。  「まあ、ええけど」とは、何か提案があってそれが特に嫌でもない時の返し文句、つまり俺の口癖みたいなものだった。季節はずれの花火、というよりも暇な現状を打破するには健太にしては良い案を出したな、と思った。  カップラーメンを食べ終えてもう一度コンビニの中へと戻り、半信半疑で探した花火は、季節はずれでもちゃんと置いてあった。 「さすがコンビニエンスストア。やっぱり何でも置いてあるな」  健太がそう言って、俺も「確かに」、と呟いた。  種類は少ないながらも最低限の品揃えはあり、俺達はその中から四種類ほど手にとった。適当に手持ち花火が幾つか入っているやつ、ロケット花火、線香花火、そして欠かせない打ち上げ花火。それらをレジに持っていき精算を済ましていると、俺達の接客をしていた店員さんが、楽しそうですね、とニコッと笑顔をくれた。それを抜きにしても可愛い店員さんだった。 「よし、おっぱじめるか!」  健太がコンビニを出て響かせた最初の一声は、おっぱじめるか、だった。そんな健太の声を聞くと、そうだな、じゃあおっぱじめるか、という気分になるから不思議である。
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