深まる夜を越えて

23/35
前へ
/122ページ
次へ
「じゃあね、武」 新幹線のホームで愛美が俺に手を振る。 「あぁ、愛美も仕事頑張ってな」 新幹線がホームに流れる様に入ってきて、停車した事を確認した後、俺は荷物を手にした。 「可愛い奥様にも宜しくね」 愛美が不意にそんな事を口にする。 可愛い……いや、今はかなり怒ってる筈。 だって電話に出てくれないもん。 「あ、ああ…宜しく言っとくよ」 俺は手にしたお土産を確認する。 「どうしたの武?ひどい汗よ?」 「だ、大丈夫、何でもないよ」 俺はガクガク震えながら新幹線に乗り込むと、愛美と別れた。 加速していく新幹線の窓から、愛美の姿は流れる様に消えていく。 東京を去りながら、彼女の笑顔がいつまでも残っていた。 俺は美咲と結婚していなかったら、愛美と今頃付き合ってたのかな。 不意にそんな事を考える。 美咲はどうなんだろう。 俺は美咲の過去をあまり知らない。 美咲はこんな事を考えた事は無いのだろうか。 俺以外の男を好きになる。 ………………。 いや、美咲に限ってそんな訳無いか。 美咲が浮気……俺じゃ有るまいし。 時速270キロの新幹線は、俺を乗せてあっと言う間に俺の街に着いた。
/122ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14233人が本棚に入れています
本棚に追加