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木曜日の夕方。
サラリーマンが行き交うオフィス街を一本奥の路地へと入る。
辺りを夕日が茜色に染めるその路地を、少し奥まった方へゆっくり進むと、左手に外灯を灯した、小さな一軒の店が現れる。
煉瓦調の壁と古さが、落ち着き感を放つそんな店だった。
店の前に立つと、夕焼けに似た、淡いオレンジ色の外灯が店の扉を照らす。
アルペジオ。
この裏路地にひっそりと建つ店の名だ。
店の扉に手を掛け、ゆっくりと押し開ける。
手にはひんやりとした、冷たい感触が残った。
扉を開けると、甘いブランデーの香りに、静かにジャズの音色が耳に届く。
そしてそのまま店の奥へと踏み入れる。
中は薄暗く、外の外灯の様にオレンジ色の照明が、優しく部屋を包んでいた。
まだ時間的に早いせいか、テーブルに座る人も疎らだった。
カウンターには、店の雰囲気に合ったマスターが、只静かに酒をグラスに注いでいた。
その後ろでは、レコードに回されながら、古いジャズが静かに流れていた。
そして、さらに店の奥、カウンターの端の席に独りの男が座っていた。
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