大人になるとは

2/10
前へ
/122ページ
次へ
木曜日の夕方。 サラリーマンが行き交うオフィス街を一本奥の路地へと入る。 辺りを夕日が茜色に染めるその路地を、少し奥まった方へゆっくり進むと、左手に外灯を灯した、小さな一軒の店が現れる。 煉瓦調の壁と古さが、落ち着き感を放つそんな店だった。 店の前に立つと、夕焼けに似た、淡いオレンジ色の外灯が店の扉を照らす。 アルペジオ。 この裏路地にひっそりと建つ店の名だ。 店の扉に手を掛け、ゆっくりと押し開ける。 手にはひんやりとした、冷たい感触が残った。 扉を開けると、甘いブランデーの香りに、静かにジャズの音色が耳に届く。 そしてそのまま店の奥へと踏み入れる。 中は薄暗く、外の外灯の様にオレンジ色の照明が、優しく部屋を包んでいた。 まだ時間的に早いせいか、テーブルに座る人も疎らだった。 カウンターには、店の雰囲気に合ったマスターが、只静かに酒をグラスに注いでいた。 その後ろでは、レコードに回されながら、古いジャズが静かに流れていた。 そして、さらに店の奥、カウンターの端の席に独りの男が座っていた。
/122ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14233人が本棚に入れています
本棚に追加