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カウンターの端にひっそりと座る男は、徐々にグラスを持ち上げると、静かにそれを眺めていた。
グラスに入ったブランデーは店の照明に反射して、琥珀色の輝きをより深めていた。
男はグラスをしばらく眺めていたが、今度はゆっくりとグラスを回し始めた。
グラスの中のブランデーが、溶けだした氷と静かに混ざり合う。
時折、グラスに当たった氷がカランと音を立て、この静かな店にその音を響かせた。
そしてグラスの中で良く馴染ませたブランデーを、男は口に当てそしてゆっくりグラスを傾ける。
ブランデーの濃厚な味と、後からくる深い甘みが、その男の喉を舐める様に流れていく。
男はグラスの中を全て飲みきると、空になったグラスをカウンターに置いた。
ブランデーに浮かんでいた氷は、それを無くし崩れる様にグラスの底に倒れていく。
また店に余韻だけが残る。
そして男は、奥まで溜めていた様に深く静かに、その息を吐き出した。
口から漏れるブランデーの甘い香りが、またその余韻を引き立たせる。
引き戻されるかの様に、店に流れているジャズの音が耳に届く。
深く息を吐ききった男は、満足げに誰にも聞こえないぐらい小さな声で呟く。
「う~ん……マンダム…」
「マンダムじゃねぇよ、バカ」
「痛っ!?」
俺はその男の後頭部に、チョップをお見舞いする。
「あはは…久しぶり会ったのに酷いじゃないかぁ…あはは」
久しぶりに会った半蔵は、少し大人になったのか爽やかに笑っていた。
何だかムカつく。
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