許嫁な奥様

2/9
前へ
/122ページ
次へ
「武、今の私、凄く幸せ」 「はは…何だよいきなり」 ホテルの一室で、そんな言葉を囁く。 大きなベッドの中で、お互いに身を寄り添って愛を確かめていく。 「武、愛してる……」 俺の腕の中に居る彼女は、優しく俺の肌に唇を当てて何度も愛撫を続ける。 「あぁ、俺もだよ」 少しだけ腕に力を入れて、彼女を引き寄せる。 「痛っ…」 お互い裸で寄り添っているからか、チクリとした感触が俺を襲う。 「どうしたの、武?」 「いや、何でも無いよ。 気のせいだから」 もしかして、アレが原因だとしても、彼女にそんな失礼な事は絶対に言えない。 気のせいだ、絶対に気のせいだ。 心の中で、何度もそう言い聞かせて、再び彼女を自分へと引き寄せる。 すると、またチクリと俺の胸に、言いようの無い痛みが俺を襲う。 「どうしたの武…」 彼女は、俺の胸に埋めていた顔を俺の方へ向け、上目遣いで投げ掛ける。 「美咲の事………考えてたでしょ」 彼女はポツリと、そんな言葉を漏らした。 「私と2人で居る時だけは、私だけを見て。 私だけを考えて。 私だけに、武を独占させて」 彼女はまた、俺の胸に顔を埋める。 「分かってるよ、ごめんな、綾…」 俺は、腕の中の綾の頭を優しく撫でながら呟いた。
/122ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14233人が本棚に入れています
本棚に追加