許嫁な奥様

3/9
14233人が本棚に入れています
本棚に追加
/122ページ
「今日も仕事って言ってきたの?」 「ん?……」 「美咲に」 「ん…あぁ」 「本当、可哀想よね。 まさか、武と私がこんな事になってるなんて……」 俺は綾の言葉に黙ったまま、綾にキスをした。 「…武って乱暴ね」 唇を離すと、綾は淫靡な笑みを浮かべながら俺の体を愛撫する。 「私と美咲………どっちを愛してる?」 綾の問いに、俺は沈黙で受け流す。 「昔と変わらないわね。 まだ自分から逃げてる、逃げ切れる訳でも無いのに、バカみたい」 俺が黙っていると、綾は一人淡々と喋り続けた。 俺はその度に、胸の辺りにチクチクとした痛みを覚えていた。 そしてその痛みは徐々に膨らむ様に広がっていく。 まるで体を這う虫の様な感覚だった。 俺は我慢出来ずに、ベッドの中に視線を移した。 毛? そこで見た物は大量の毛だった。 しかもチリチリでモジャモジャで、言葉では言い表せないぐらい気持ち悪い光景だった。 「どうしたの?武」 綾が抱きついてくる度に、チリチリがチクチクして痛かった。 俺はこの毛を、昔見た覚えがある気がする。 「武、気になるのこの毛が?」 綾の突然の問いに、俺は困惑した。 とてもじゃないが、気になるなんて本音は言えない。 俺は沈黙で受け流す事に決めた。
/122ページ

最初のコメントを投稿しよう!