深まる夜を越えて

17/35
前へ
/122ページ
次へ
「メニューが日本語じゃないし、値段も書いてないし…どうしよう武」 彼女は周りに聞かれない様に小声で話す。 「いや、こう言うお店だとこれが普通だから」 彼女の慌てように笑った。 「ふ、普通って、ここは日本だよ、ジャパンよジャパン」 何故英語に言い換えたのかは謎だが、彼女との些細なやりとりが俺には妙に新鮮で楽しかった。 「ワインをお持ちしました」 再びボーイが現れた。 手には頼んでおいたワインを持って。 それから俺がボーイにコースを頼むと、ボーイはワインをグラスに注いでテーブルを去った。 「武凄いね、堂々として格好良いよ」 彼女は俺に微笑む。 「愛実は社長の秘書だし、フランス語ぐらい読めるだろ?」 「まさか、社長秘書って言っても第五秘書だし、やってる事は書類整理ばっかり。 英語ならそれなりに出来るけど、フランス語なんて全然…」 彼女はそう言って溜め息を吐いた。 「そっか…大変なんだな、愛実も」 「それより乾杯しましょ」 少し沈んだ空気に、彼女の明るい声が走る。 「何に乾杯しよっか?」 グラスを持った彼女が尋ねる。 「そうだな、久し振りの再会に乾杯かな」 「そうだね、私達運命だもんね」 彼女はそう口にして、グラスとグラスを重ね合わせた。
/122ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14234人が本棚に入れています
本棚に追加