深まる夜を越えて

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「凄く美味しかった、有難う武」 「美味しかったね」 そう言って、赤いワインの入ったグラスを傾ける。 「お肉もお魚も、凄く美味しかった。 私はワインなんて全然解らないけど、凄く飲みやすくて美味しい」 彼女に合わせて、少し甘味のあるワインを選んで正解だったな。 「じゃ、そろそろ行こうか」 ワインを飲んで一息ついた後、俺は彼女にそう言って席を立った。 会計を済ませて店を出る。 「ロビーに降りてタクシー呼ぼうか?」 後から着いてくる彼女を待って、俺はそう切り出す。 「え?」 彼女は少し驚いた様な表情を見せ、俺のスーツの端を少し触る。 「私、まだ飲み足りない……かな」 遠慮がちに喋る彼女。 「けど、明日も仕事だろ?早く帰って休まないと」 腕時計の針は、もうすぐ10時を指そうとしていた。 「大丈夫、明日は休み貰ってるから」 「え?そうなの?」 「うん、武明日帰っちゃうでしょ、だから見送りに行こうかと思って」 「そうなんだ、わざわざ有難う」 そう言うと、彼女は小さく首を横に振った。 「なら、最上階のバーでもう少し飲もうか?」 「うん!」 笑顔になった彼女は、俺の腕に飛び付いてくる。 腕を組んだ俺達は、再びエレベーターに乗り込んで最上階を目指した。
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