14234人が本棚に入れています
本棚に追加
「そう、みんな元気なんだ」
彼女はカクテルの注がれたグラスを、カウンターに置く。
「ああ、あの半蔵が弁護士になったし、何だかんだ言ってみんな大人になったんだなって思わされるよ」
「そうだね、みんな大人になって変わっていくんだね」
彼女は少し悲しげな表情を見せる。
「愛美?」
「変わらないのは私だけかな…」
静かで落ち着いたバーの中で、愛実の声が弱々しく響く。
「何かあったのか、愛美?」
彼女の悲しげな横顔に、俺は心配しながらも惹かれていた。
「ねぇ武、私達が離れる時にした約束って、まだ覚えてる?」
俺の方にちょっと泣きそうな顔を向け、彼女は俺に話し掛ける。
「あぁ…覚えてるよ」
俺は覚悟を決めた後、ゆっくりと口を動かした。
その言葉を聞いた彼女は、少し明るい表情へと変わる。
「正直、愛美に出逢うまで忘れてたけど、ちゃんと思い出してるよ」
「そう……有難うね」
彼女はまた顔を下に向け、グラスに入ったカクテルを見つめる。
カクテルに写る彼女の顔は、ゆらゆらと揺れてまるで泣いている様に見えた。
「私ね、まだ武の事が好きなんだけど…」
少しの沈黙の後、彼女は俺に告げた。
最初のコメントを投稿しよう!