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「なッ……!?」
岬は自らの耳を疑う。
だが神様は今確かに、岬の願いをひとつだけ叶えてやると言った…。
「何がいい?何でも叶えてやるよ。嫌いな奴を消したり、今欲しい物を出すことも可能だぜ」
「いや、嫌いな奴を消したりって怖いから。そんな願いはないから」
顔を左右に振り、きっぱりと否定した。
「そうか…ただし、世界征服とかはなしな。天界の条約で決まってんだ」
顎に手を添えて言う。
「嫌いな奴を消すのは良くて、世界征服はなしって…基準がよく解らないなぁ…」
岬は眉をひそめる。
神様は、否。先ほどの特別会議に出た者全てが、分かりきっていた。
岬が何を願うのか。
恐らく自らの不幸の根源、それでいて体に寄生している、不幸の称号の除去だと考えられた。
確実に…。
――俺達の不始末で、雨水少年の今までの人生を狂わせて来た。
これで許してくれるのなら、罪滅ぼしが出来るのなら、不幸の称号を体から取るくらい、お安い御用だ…。
そう心の中で呟きつつ神様は、目の前の岬を見据えた。
「さぁ、お前の願いは何だ、雨水少年…」
その言葉に応えるかのように、岬はゆっくりと顔を上げる。
そして、露になったその表情からは、迷いの色はみじんも見えない。
岬の真っ直ぐな瞳に直視された神様は、不覚にも全身の毛が逆立てる。
灰色に染まった世界に、夜の春風が吹いた。
そしてその肌寒い春風によって、二人の髪が揺れ動く。
岬は口を開いた。
春風の音を切り裂くように、言葉を発する。
「俺は――」
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