雨水岬の願い

10/10
7376人が本棚に入れています
本棚に追加
/311ページ
「おう…」 コクリと頷く。 「どうですかね…」 「いや、どうですかねって言われてもな…まぁ、お前が何故その願いにしたか…良く分かった…気がする」 頭をかきながら言う。 「お願いです神様ぁっ!!どうか…どうか僕に、不幸を受け入れてくれる彼女を!」 まるでモテない男のように(実際に不幸のため、モテてない)、岬が泣き付いてきた。 戸惑う神様。 「だぁっ!分かった分かった!それで良いんだな!?後悔はしないんだな!?」 暑苦しいので、岬を引き剥がす。 良く考えろよ…ったく――。 「後悔なんて、滅相もない!」 「何が滅相もないだよ…」 頭をかかえ、神様は深いため息をついた。 そして、呆れた顔で口を開く。 「じゃあ、その願いを叶えてやるよ…。明日の朝お前が目を覚ました時には、テーブルの上に朝メシと、お前の“彼女”がいるハズだ…まぁせいぜい期待してろや…」 岬はそれを聞いて、瞳に涙を浮かべる。 そんなにまで彼女が欲しいのか。 「何か、アンタが神様に見えてきたよ…」 「俺は神様だ」 しばらくしたら様子を見にくる。 神様はそう言って、失明せんばかりの光に包まれて、消えた。 それと同時に、灰色に染まった世界が色を取り戻す。 そして岬と衝突しそうになったトラックが、何事もなかったかのように走り去った。 恐らく、シャットダウンしていた世界の時間の流れが、元に戻ったのだろう。 その様子を見ていた岬は今、破裂しそうな程に身体中が、幸福感で満たされていた。 「アハハハ……やったぁぁぁぁッ!!!」 市街地の一際高い、ビルの屋上に神様がいる。 都会とあって、鼻をさす排気ガスの匂いが立ち込めていた。 「うぇ……これだから人間界は苦手だぜ…」 鉄の柵に肘を置き、全体重をかけ、一段と深いため息をつく。 「はぁぁ…まさか雨水岬が、あんなにも浅はかだったとは…」 そして、高いビルの上から大量の車の流れを傍観し、呟く。 「彼女…か…」 岬の叫びと、神様の呟きが、重なった――。
/311ページ

最初のコメントを投稿しよう!