第三章 予期せぬ悲劇

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(赤、い筋。暗い、道……あの子が)  ――ずきんっ。  頭と胸に刺されたような鋭い痛みが走る。  なぜかは分からないけれど、それ以上考えてはいけないと、どこかで警鐘が鳴っていた。  頭の――あるいは心のどこか奥深く、意識の届かない深遠で、無意識の危険信号が点滅している。 (だめだ。もう、考えられない)  たいして走ってもいないのに、浅くなる息を無理矢理大きく吸い込み、勢いを殺して吐き出す。  指先が(しび)れたように冷たくなり始め、このままでは過呼吸になりかねない。 (気を散らせ。あまり呼吸を意識しちゃだめだ)  背後に迫る足音に意識を向けた時、横断歩道の信号が赤に変わり、仕方なくたたらを踏んで立ち止まる。  立ち止まった、はずだった……  しかし、視界の隅を黒い影の(かたまり)疾風(しっぷう)のように駆け抜け、はっとした瞬間。  愛真の身体は、徐行(じょこう)もなしに走り抜けようとしていた車の前へ、飛び出していた。 「っ――!?」  鈍い衝撃が半身で弾け、痛みを感じる間もなく身体が宙に投げ飛ばされる。  意識するより早く反射的に受け身の態勢を取り、そのままアスファルトに叩き付けられた。  その反動で肩が弾み、守ったはずの頭が地面を打つ。  そして(うめ)きすら上げられないまま、意識は闇へと落ちていった。    
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