第三章 予期せぬ悲劇

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   キギギィイーーッッ……車のタイヤの軋む耳障りな音が、その場の空気を切り裂く。  ドンッ――  身体が車体に激突し軽々と跳ね飛ばされ、固いアスファルトに叩きつけられる、どしゃりというなんとも嫌な衝撃音。  愛真は一度身体をバウンドさせると、それきり横向きに倒れたまま、ぐったりと動かない。  鳴り響くクラクションと、焼けたゴムの異臭。  ばたばたと駆け付けた広志をはじめとする一団も、愛真の背中を必死に追っていた友季も優依も、目の前で起きた惨事に棒立ちになり、誰ひとりとして動けなかった。  キキッ――  対向車線で軽トラが急ブレーキをかけ、痩せたおじいさんが、慌てた様子で飛び出して来る。 「おいっ、どうしたんだ!」  その声でようやく呪縛が解けたのか、一番前にいた友季がいち早く愛真の下へ駆け寄った。  その友季の手がためらいがちに、愛真の頭に伸ばされる。 「あー……ちゃん?」  触れた物を確かめるように持ち上げられた、震えるその指先は、愛真の鮮血にべっとり濡れていた。 「いっ……」  そして…… 「やああああっっーー!!」
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