第三章 予期せぬ悲劇

33/47
前へ
/297ページ
次へ
 血の鮮やかで生々しい色、その金臭い匂い、友季の魂を引き千切るような悲鳴に、広志の意識は支配された。 「あーちゃんっ、あーちゃっ――」 「だめだっ! 動かすな友季ちゃんっ!」 「友季っ!」  愛真の身体に取り(すが)った友季の腕を涼介が掴んで止め、更にその細い肩をレオンが抱きかかえて引きはがす。 「やだっ、あーちゃんがっ。あーちゃんが――」  (あらが)う友季を無理矢理引きずるように歩道に上げ、レオンが暴れる身体をきつく抱いて、どうにか押さえ付けた。 「友季っ、今動かしたらあかんのやっ。友季っ!」 「だって、血がっ……あーちゃん、血がっ」  引きつけを起こしたように呼吸を弾ませ、顔を歪めて同じ言葉を繰り返す友季。  その顔を胸に押し付けて視界を塞ぎ、背中を強くさすり、必死にレオンはなだめる。 「大丈夫や。涼介が手当てしてくれるさかい、友季は俺とおるんや。ええな」 「うっ、んくっ……」  しゃくりあげながら、友季は震えの止まらない手でレオンにしがみつく。 「愛真っ、聞こえるか? 愛真っ」  涼介が声をかけながら、そっと慎重に愛真の様子を(うかが)う。斜め上を向いた顔に耳を寄せると、弱いが規則的な呼吸を感じる。  これならひとまず、肺は無事だろう。
/297ページ

最初のコメントを投稿しよう!

57人が本棚に入れています
本棚に追加