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上になった右半身は所々制服が破れ、酷い擦り傷と切り傷が血を滲ませ、脛の部分は早くも赤黒く腫れ始めている。
触った感触では、肋骨も折れているようだ。
「一番の問題は頭か……」
アスファルトに打ち付けた左側頭部からは、かなりの血がしたたり落ちている。
脳の損傷を考えると動かしたくなかったが、愛真の顔からは見る間に血の気が引き、唇までもが青ざめていく。
このままの状態が長く続き、血中の酸素濃度が低下すれば、低酸素脳症の危険が高まる。
更に怖いのは、出血を放置することにより、失血性ショックが起こる可能性だ。
「ショックが起きちまったら、病院までもたんかもしれん……それだけは――」
この姿勢では万が一にも呼吸が止まってしまった時に、心肺蘇生も行えない。
なんらかの原因によってショック状態に陥り、そのままあっという間に死んでしまった人間を涼介は何人も見てきたのだ。
「くそっ、やるしかねぇ!」
迷ったのは束の間だった。斜めになっていた愛真の頭を出来るだけ揺らさないよう、慎重に上を向かせ、顎を上げて呼吸を確保する。
頭を両膝で挟んで固定すると、涼介は手早くワイシャツを脱いでざっと折りたたみ、ポケットから引っ張り出した洗いたてのハンカチと共に頭の傷に押し当て、手のひらで強く圧迫した。
「もってくれよ……じいちゃん、救急車呼んでくれっ!」
「わしゃ、今日は携帯持っとらん。そこの家で電話借りてくるから、待っとれっ」
焦り勇んで、どたばたと駆けて行くおじいさんを見送った涼介の手の下では、じわじわとワイシャツに血が染み出している。
その毒々しいまでの赤さとワイシャツの白さが、広志の脳裏で乱反射する。
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