第三章 予期せぬ悲劇

35/47
前へ
/297ページ
次へ
(死ぬ、のか?)  膝が震えた。意識した途端、氷水を浴びせられたように心臓が縮み上がった。 「成矢っ、誰か教師を呼んで来い。広志――」 「おお、ゆき。大雪いぃっ!!」 「ちょっ、広志っ!」  足をもつれさせながら、尋常(じんじょう)ではない叫びを上げ駆け出した広志の背中に、成矢がとっさに飛び付く。 「なんしよーとっ。落ち着きぃーっ」 「放せ、放せよっ。大雪ぃっ!」  はがい締めにした成矢の腕を振りほどこうとする様は、まるきり先程までの友季と同じだった。  だが、それを自覚するだけの冷静さが今の広志にはない。 (嘘だろ。俺が、あんなこと訊いたから……追いかけたりしたから……こんな、こんなことになるなんて)  耳元で、うるさいくらいに鼓動が鳴っている。  ざらついた視界の中で、鮮血にまみれた愛真の姿だけがくっきりと見える。 「成矢、そのまましっかり抑えてろっ。くそっ、じいちゃんまだかよ」  焦りを(にじ)ませ悪態を()く涼介に頷き、成矢が更に強く腕を締め足を踏ん張った。  それでも広志は、前に進もうとあがき続ける。 「あ、いかわ。愛川、ちょっと(ちょー)手伝ってくれ。愛川っ」  女が大嫌いな成矢がこだわりを捨て助けを求めるが、優依は硬直したまま青ざめた顔で、ひたすら愛真を凝視している。 「大雪っ――」  愛真が校舎を飛び出してから、(わず)か十分たらず。広志達は皆、悪夢のただなかにいた。  
/297ページ

最初のコメントを投稿しよう!

57人が本棚に入れています
本棚に追加