第三章 予期せぬ悲劇

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   車の急ブレーキの音。それに重なるように響いた鈍い衝突音。そして、友季の絶叫。  ホームルームを前に、三年二組の自分の席に着いていた雪と、副担任として諸々の準備をしていたトーワの耳にも、それは届いた。 「雪っ」 「分かってる」  二人は視線を交わすと、すぐさま行動に移る。  眼鏡越しに窺ったトーワの淡萌黄色(アップルグリーン)の瞳は、恋人の悲鳴を聞き分け、(かげ)っていた。  不安なのは雪も同じだ。友季がいるということは、必ず優依も一緒にいる。  何かが……恐らくは、事故が起きたその現場に。最悪、優依が巻きこまれた可能性もある。 「自習をしていなさい。席に着いてっ」  ざわつく生徒に指示を飛ばすトーワより、一足先に教室を飛び出す。  人もまばらな廊下と階段をいっきに駆け抜け、上履きから靴に履き替えるのももどかしく、舌打ちしながら校舎を出て校門へ向かう。  走りながら前方の様子を観察すれば、大体の状況は飲み込めた。  雪は足を止めずに、ブレザーのポケットから携帯電話を引っ張り出し、救急ダイヤルをコールする。 「朝川学園中等部、正門前の車道で、人身事故。負傷者は一名……救急車をっ」  言うだけ言うとさっさと携帯をポケットに戻し、いったん立ち止まる。
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