第三章 予期せぬ悲劇

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 今、詳しい説明が出来るのは、涼介だけだろう。  いくらなんでも、この状態の友季と優依に話を聞くのは、あまりに酷だ。 (最低限の事情は、涼介が救命士に話しただろうから、抜けても支障がない俺が適任だ)  友季達が病院へ行くのは、警察の事情聴取を済ませてからになるだろうが、仕方ない。  むしろ愛真が治療に入ってからの方が、都合がよかった。 「どなたか、付き添いの方はいませんか」  救命士の呼ぶ声に軽く片手を挙げて応じ、 「病院で……」  優依の頭を優しく撫で、生々しい鮮血の匂いが漂う現場を後に、雪は救急車へと乗り込んだ。  救命士の(かたわ)らに座った途端に、以前、今は亡き母が運ばれた時の様子を思い出し、雪は微かに眉根を寄せる。 (何度乗っても、いい気はしないな)  目の前には、頭を固定され酸素マスクをつけられても、依然として意識を取り戻さず、血と傷にまみれた凄惨(せいさん)な愛真の姿。  こんな日に限って制服を着ているものだから、ワイシャツは真っ赤に染まり、尚のこと目に痛い。  こんなありさまを、あの二人に見せておけるはずがなかった。      
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