第三章 予期せぬ悲劇

43/47
前へ
/297ページ
次へ
   草薙(くさなぎ)総合病院。手術室前の待合室は、祈るような沈黙に満ちていた。  友季と優依は互いに身を寄せ合い、手を握り締め、その傍らに雪とトーワが座り、それぞれ背中を撫でさすっている。 「トーワっ。愛真の容体はっ?」  連絡を受け、早々に取る物も取りあえず駆けつけたものの、経緯も事情も、真悟は詳しい話を何も知らなかった。 「オペ中でまだなんとも……」  眼鏡のレンズの奥、垂れ目がちな目を伏せ、瞳を頼りなげな色に染めて、立ち上がったトーワは(こうべ)を垂れる。  今年で二十歳になる、特別専門学校出身のまだ若い英語教師は、いつも優しげで、落ち着いた雰囲気を漂わせていた。  それがこんなにも、不安そうな表情をしている。 (そんなに悪いのか?)  真悟の胸の内を、ざらりとした不安と恐怖が撫でる。  愛する芳南(かなん)を失った瞬間の絶望感が、まざまざと(よみがえ)った。 (嫌だ。もう、失いたくない。……芳南、愛真を守ってくれ。連れて行くなっ)  いても立ってもいられず、いきさつを問い質そうと口を開きかけた時。  ――シュンッ。  手術室へと続く扉が開かれた。  緑の手術着姿で現れた医師は、思いもよらない人物で、真悟は知らず呆然と見上げる。
/297ページ

最初のコメントを投稿しよう!

57人が本棚に入れています
本棚に追加