第三章 予期せぬ悲劇

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(しゅう)……お前がなんで」 「たまたま合同オペで居合わせてな。例のこともあるので、私が主治医と提携することになった」  淡々と語る相手に、真悟は小さく呟く。 「そう、か……」  月ヶ瀬秋芳(つきがせしゅうほう)。真悟とは二つ違い、今年三十歳になった腹違いの兄で、次男にあたる。  救命救急で総合診療医として腕を磨いた開業医で、外科を得意とするオールマイティーな愛真のかかりつけの医師。  精神科医としてもかなり有能で、心理学において、十九歳の時に博士号を取得している程だ。 (秋が執刀したなら、きっと大丈夫だ)  真悟は(わず)かに、安堵(あんど)の吐息を漏らした。 「容体は?」 「まあ、全治一ヶ月というところか」  手元の電子カルテに落としていた視線を、冷たさを感じさせるメタルフレームの眼鏡越しに、ちらりと真悟へ送る。  詳しいことをここで話してもいいのかと、問いたいようだ。  真悟は黙って視線だけで頷く。秋芳はカルテに視線を戻すと、再び淡々と説明を始めた。 「一番大きな外傷は、左側頭部の裂傷。これは十針縫った。他にも右上腕部、右側胸部などにも裂傷があったが、こちらは再生剤の投与と、テーピングだけで済んだ」  跡が残る心配もないと付け加え、秋芳は説明を続ける。  それを喰い入るように、友季と優依が聞いていた。
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