第三章 予期せぬ悲劇

45/47
前へ
/297ページ
次へ
「打撲と擦過傷が全身に渡って見られるが、たいしたことはない。右の肋骨(ろっこつ)が二本折れ、右脛骨(けいこつ)にもひびが入っていた」  肋骨は直接、再生剤入りのパテで固定したらしいが、すっぱり折れていたおかげで、治りも早いそうだ。 「無意識に受け身を取ったようで、肺などの内臓や脳、脳波にも、今のところ異常は見られない」  秋芳はパンッと音を立ててカルテをオフにし、立ち上がってじっと話を聞いていた友季と優依に、 「もう大丈夫だ。ひとまず今夜一晩、ICUで様子を見るが、明日には一般病棟へ移せるだろう」  安心させる為の優しく穏やかで、頼もしい微笑を向けた。  それだけで、張り詰めていた緊張が、雪解けのように緩んでいく。  中性的な秋芳の顔立ちは、患者やその身内に絶対的な安心感を与える、魔法の微笑みがよく似合うのだ。 「優依ちゃっ……よかっ、よかったよぉー」  友季は優依に抱き付き、感きわまって嗚咽を漏らす。  その身体をしっかり抱き返しながら、優依も濡れそぼった目尻を、新たな涙で濡らした。  そんな二人をトーワと雪も顔を(ほころ)ばせ、優しく抱き締める。  真悟も取りあえずは、肩の力を抜き、ほうっとひとつ吐息を(こぼ)す。
/297ページ

最初のコメントを投稿しよう!

57人が本棚に入れています
本棚に追加