第三章 予期せぬ悲劇

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(よかった。本当によかった)  これ以上、愛する者を無惨に失うのは耐えられない。  病に冒され、最期は強い鎮痛剤で朦朧(もうろう)としたまま逝った、芳南を思った。 「秋、ありがとう。これからも愛真を頼む」 「任せろ。愛真の扱いには、慣れているからな」  秋芳は真面目な顔に、いたずらな笑みを(ふく)ませながら、真悟と握手を交わし、肩を叩く。  なぜかジャージ姿の涼介や、他の二人もどうしてここにいるのか分からないが、口々に喜びと安堵の言葉を吐いていた。  そんな中、独り広志だけが、硬い表情のまま、青白い顔で(たたず)んでいる。 (こいつ、どういう関係だ? いったい何があったんだ)  真悟の疑問は、昼過ぎになり、ようやく落ち着いた優依と友季の話で、やがて解けたのだが、新たな不安の種を胸に残すこととなった。 (愛真がsnowか訊かれただけで、逃げ出したって? しかも、周りに誰もいなかったのに、突き飛ばされたように見えた?)  嫌な予感がする。  闇に沈む部屋の中で、うずくまる小さな身体。絶え間なく漏れるすすり泣きと、血が(にじ)むまで掻きむしられた細い首。抱き締めても(こた)えは返らず、弱っていく命の灯火(ともしび)
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