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「横川くん!」 「は、はい!」 本条さんの張った声に僕はビクッと驚いた。 彼女は深い溜め息を吐く。 僕が何かしたのだろうか? 「あの……ご注文の方を」 「ああ、ご注文ね。えーと」 僕は急いでメニューを開いた。 えーとなになに…… 横川カレー 横川のステーキ 横川のシチュー 横川のおひたし 横川のお刺身 横川しゃぶしゃぶ 横川のハンバーグ…… 横川ってなんだ? 地名かなんかかな? 「あの……これって」 「はい、なんでしょう?」 「この横川って料理の頭に付いてますけど……地名かなんかですか?」 陽子さんはにっこりと笑顔で答える。 「いえ、新鮮な横川を使ったお料理ですの」 「新鮮な横川? 豚か何かですか?」 「いえ――人間ですの」 「へ、へぇー」 僕は嫌な汗をナプキンで拭いた。 きっと僕の聞きまちがえだ。 インゲン――そう、陽子さんはインゲンと言いたかったのだ。 そうだ、そうに違いない。 ふと本条さんを見ると――にやにやと不適な笑みを浮かべ、ナイフとフォークを両手で握り締めている。 その目は旨そうな肉を見る獣に似ていた。
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