第四章

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6月も中旬。 ますます日は長くなっているはずなのに、ちっとも実感が湧かない。 それどころか、短いような気がする。 感動の無い、代わり映えの無い毎日を送っているからなのだろう。 「応用練習」にも慣れてしまったし、別段大きな事件も起こらない。 特にこれ以上の望みも無いし、こんな日々がずっと続くと思ってた。 今年から設置された空調のおかげで、教室はすこぶる快適だ。 しかし、俺の意識はもうここにはない。 そうだな、あの深緑の山の辺りだろうか。 こんなことを6回繰り返してしまった。 なんの変哲も無い日常だ。 部活。いつものように本を開く。 「したたかな星」というSFだ。なかなかおもしろい。 物語が佳境に入り始めた頃。謎の年表を見ていた田崎が、 「むむっ。」 と声を上げた。 いつもの事だ。また、変な理論を語り始めるぞ。 案の定。浦島と会話をした後、二人でこっちにきやがった。 「葛籠君!僕たちは大変な事に気付いてしまった。」 おまえらの頭が大変だ。 と言ってもこの二人は常に成績では学年上位を維持しているのだが。 「いまやこの世界を支配しているのはアメリカだ。アメリカ大統領が地球総統であると言っても過言ではない。」 「はぁ。」 適当に返答をする。 「第二次世界大戦終結後、あの国は自分達に歯向かう者をことごとく抹殺して来た。」 「そうですね。」 「でも僕たちはある事に気付いた。あまりにもアメリカ…いや、この世界が安定しすぎている。」 「そうですか?戦争は終わりませんけど。」 「アメリカの強大な権力が長続きしすぎなんだ。歴史的に見てもここまで大きく、そして長く続いた例は少ない。」 「なるほど先輩達のおっしゃる事はおもしろいですね。」 高峰さん。いたのか。 「先輩。なぜこうなっているのでしょうか。」 「情報網の発達のせいかな?強大な権力が瞬時に地球の裏側まで届くようになった。」 「それと、兵器の発達だな。世界中の核兵器を使えば地球は余裕で吹っ飛ぶらしい。危険な行動には出たくないものな。」 つまり情報と軍事の発展により、世界は平和になった。 ただのいい話じゃねぇか。 「そうとも限りません。安定している物ほど脆い物は無いですよ。」 「その通りだ。高峰君、君は優秀だね。」 俺が優秀じゃねぇみたいな言い方だな。 「この事をまとめて論文にしてみるよ。大学の入学課題に役立つかも知れない。」 ピンポンパーン その時だった。 放送のチャイムが鳴ったのは。
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