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「え?」
なんと楓くんがこっちを見ている。しかし、その顔からは笑顔が消え、鋭い眼光が俺へと光る。
こんな顔を初めてみた。
まずい。まさか見つかるとは思っていなかった。しかも楓くん本人に。
しかし、彼がそんな顔をしていたのはつかの間で、目からファインダーを離した俺の[顔]を見ると、笑顔に戻った。とは言っても最初の笑みとは明らかに違う。心から可笑しいと言う顔だ。
「カットー!」
声が響く。
「駄目でしょー楓くん。そんな顔しちゃー」
「すいません。」
苦笑。
よし。今のうちに…
その時。
「…ちょっといいですか?」
あろうことか彼はこちらに向かってきた。ひとごみが割れる。そしてやはりと言うべきか、彼は俺の前で立ち止まった。
楓くんは俺より一学年上。背が高い。
「ファンの人かな?」
楓くんは終始笑顔だ。
、
「あ、えーと祖父が…」
その言葉を聞いたとたん、彼は腹を抱えて笑いだした。俺が目を点にしていると、
「あぁ、ゴメンね。撮影中は写真撮っちゃ駄目なんだよ。」
知っている。
「でも今は撮影中ではないね。…ちょっとカメラを貸してくれるかな?」
そう言うと彼は俺の隣に立ち、近くでポカンと見ていた女子大生にカメラを手渡した。
「すいませんがシャッターを押して頂けますか?」
もちろん断るわけもなく、見事に俺と楓くんとの2ショット写真ができてしまった。
「それじゃあ、おじいさんによろしくね。」
夢のような出来事に放心しかけていた俺にそれだけ言うと、楓くんは撮影へと戻っていった。
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