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「──えへへ、もう、そんなことないわよぅ!」
「…え?そうかなぁ、でも私より桃ちゃんのが可愛いと思うよ♪」
「……」
今、目の前に起きている情景をどう表現したらいいのだろうか。
それ自体はなんの違和感もない、女子同士のきゃぴきゃぴ(死語)とした会話だ。
だが、その会話は成り立つ筈がないのだ。
だって俺の前に女の子は──。
・・・・
一人しか、いないのだから。
少女の傍らには、かわいらしい人形。
つまりは、人形と会話していたということで。
唐突に降ってきた電波的な出来事に思わず、俺は呆けながら呟いてしまった。
「…誰と、話してるんだ…?」
その瞬間、俺の目の前で楽しげに話していた彼女の表情が凍る。
それと同時に、夕陽の射す教室の温度も絶対零度に達した気がした。
「…見たわね?」
ギラリと。
ヤーさん並みの眼光で俺を睨み付けてくる少女。
腰の辺りまで伸びた銀髪と、人形の様に整った顔が印象的だった。
「…い、いや、俺は何も見てない」
その眼光に怯み、思わずバレバレの嘘をついた。
「…アンタ」
俺の顔を見据え、少しだけ驚いた顔をする少女。
俺のあまりにアホな行動にびっくりしたんだろうな。
「…っ!?う、嘘です、本当は見た!!見ました!だけど誰にも言わない、誓う!」
「…別に、言いたいのなら言えばいい」
「…え?」
予想斜め上の答えに、思わずポカンとしてしまう。
「その時はアンタにレ○プされて強引に破廉恥な写真を撮らされた挙げ句根も葉もない噂を言い触らされたと教師やクラスメイトに宣ってあげるわ」
「…お前それ、脅迫だからな」
「…優等生の女子の言い分と、お世辞にも優等生とは言えない強面の男子の言い分、世間はどちらを信じるかしらね」
「よし絶対言わねえ!つかさっきからそう言ってんだろ!」
こいつ見た目とは裏腹に性格悪い!
おまけに人のコンプレックスまで突いてきやがって…。
「…フン、なら良いけど。ところでアンタ名前は?」
「…突然なんだよ?」
「いいから答えて、ちなみに桃ちゃんはこの人形よ」
「このタイミングで言うことじゃねえから…俺は獅童斗真」
「…そう。私の名前は神遊寺雛乃、どうせまだ覚えてないでしょ?」
「…お互い様だろ」
こうして、俺と雛乃は出会った。
今から、ここに至る経緯を語ろうと思う。
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