For Nostalgia

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 イズミが空港の到着ゲートに降り立つと、そこにはもう異国の香りが漂っていた。正確には様々な国家の香りが混じり合っているというだけで、この国の匂いはコレだ、という決め手にはまだ足りなかった。  もっとも、日本の空港は醤油の匂いがする、というぐらいだから、この国の匂いは今イズミが感じ取っているモノをそのまま言葉にすればいいのかも知れない。  どこか知的な雰囲気漂う、ほのかに甘い香り。  それがいま、イズミの立っている国、チェコ共和国の第一印象だった。 「おい、いつまでボーっとしているんだ?」  イズミは背後から上がった聞きなれた声に、ゆっくりと振り返る。  振り返った先には、白のダッフルコートに身を包んだダーシェンカが立っていた。どこか怪訝な表情を浮かべているダーシェンカの両脇には大きな黒のスーツケースが置かれている。 「あ、ごめん。海外に来るのは初めてでさ。少し舞い上がってた」  イズミは照れ臭そうに頬を掻き、ダーシェンカの両脇にあったスーツケースに手を伸ばす。 「別にいいぞ? タクシーまで私が運ぶから」 「いや、それは流石に……男子としての面目が」  イズミは苦笑を浮かべながらダーシェンカの制止をやんわりと受け流し、スーツケースを持ち上げた。  ベルトコンベアから流れてくる荷物を受け取る作業はダーシェンカに任せてしまったが、タクシーまで運ぶくらいは男としてやらなければならないだろう。いかに実際の腕力はダーシェンカに遠く及ばないとはいえ、だ。
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