交通事故防止啓発小説

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 ドトールの帰り道。昨日買った本が面白くてつい長居してしまった。  小雨が止んだばかり、湿った空気が纏わりつく感じは別に嫌いじゃない。それに雨はもう降らないだろう。出掛けに洗濯物は片付けたし、とゆっくりペダルを漕ぐ。  T字路にさしかかったのは午後四時頃。向こうが優先道路。細い道だが車通りは案外ある。  右から左へおばさんがババ乗りで通過。  左折したい僕。ぶつかるかな、と一時停止。発進。  おばさんふらふら、チラチラ。  うぜぇなぁ……  普段から言いたいことはぐっと堪える、長男気質?  おばさんの薄い頭を見つめながらゆっくり走行する僕。  向こう側に渡ろうとしたおばさん。  対向車。  あぶねぇなぁ、なんて思ってたら 「何よ後ろについてきて」  ちょっと待て、僕が後ろにいたから轢かれそうになったとでも言いたげな感じは。  思いやりと心配が仇となったわけで。 「あんたがふらふらしてるから行けなかったんでしょ」  普段なら舌打ち残して行くのだが思わず言い返した。そりゃあ温厚な僕だってそんな理不尽な理由で怒られたんじゃたまったものじゃない。  大体今日の僕は久し振りのブレイクタイムの後の穏やか気分だったのに。 「あんたの横抜かしたら僕が車にはねられるじゃないですか。そうですか、あんたは僕に怪我して欲しかったんですか。轢かれそうになったからって逆ギレすんな」 「なっ」  言うだけ言って僕はおばさんの隣を走り去る。後から後から文句が浮かぶ。  今日は言い返しただけ少しいい気分。 「あんただって携帯見ながら走ってんじゃない!」
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