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二人はあれからシアの進む筈だった方向へと歩みを進めていた。グレンの行こうとしていた方向とは真逆なのだが、そうせざるを得なかった理由は、彼女の激しい拒絶。
――あっちは止めて!! 行きたく、ないの……。
先程交わしたやりとりを思い出し、グレンは軽く息をつく。
「何をあそこまで怖がってんだ……?」
小さくぼやくものの、考えても埒があかない事。
グレンはかぶりを振り、不意に先行く彼女の背中を見つめた。
風に煽られた長く美しい髪。
その中に、見えてしまった。
「……っ?」
恐らくはその華奢な背中からだろう。そこから項(うなじ)に伸びる大きな傷痕。
それは、彼女の白い肌にくっきりと映し出されていて。
ふと、彼女がこちらを振り向く。
恐らく相当酷い顔をしていたのだろう。シアは首を傾げグレンを見つめた。
「どうしたの?」
彼女は気づいていただろうか。
いや、気づいてはいなかっただろう。
――あっちは止めて!!
――行きたく、ないの……。
「いや……」
グレンはシアの澄んだ瞳を直視する事が出来ず、顔を背けシアの隣をすり抜けた。
「……なんでもねえよ」
「グレンさん……?」
彼の苦々しいな表情に疑問を感じたシアだったが、特に思い浮かぶ事もなく。
仕方がないと溜め息をつき、グレンの後ろ姿を追った。
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