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シアはその首飾りを大切そうに見つめると、思い出したように頭上を覆う葉を見上げた。
「ねぇ、この近くに宿屋とかない? どこかの村とか町でもいいんだけど」
そう木に向かって問うと、少し間が開いてくぐもった様な声が聞こえてくる。
――右側からわりと人が来るよ。
声は幼く、人であるシアから見ると相当立派な木なのだが向こう側からしたらまだ子供の方なのかもしれない。
シアは礼を言うと、言われた通り右の方角へ歩き出そうとする。
丁度その時、雨は緩やかに止んで行き柔らかな光が辺りを包み込み始めた。
シアは鉛色の残る天を仰ぎ見、ふっと微笑む。
「おかえり」
そう呟くと柔らかい風が彼女の頬を優しく撫で――
彼女は1度瞼を下ろすと、再び前に進み始めた。
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