Courtesies‐交歓‐

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  「シア……?」 意識が覚醒すると同時に見えた白い天井。 視界の端に、深紅の髪が揺れている。 「グレ、ン……?」 視線をずらすと、視界に映ったモノは彼の不安げな表情。 シアと視線が合うと、グレンは安堵したように息をついた。 「……私、また……?」 どうやらここは宿らしい。状況を理解すると同時に額を軽く手で抑え俯くシアに、グレンは苦笑する。 「まぁ、あんだけ力使ったら当然だろうな」 「……ごめん」 長い溜め息をつき額を手で抑えながら謝罪の言葉を述べると、シアの視界に見慣れない色が飛び込んできた。 「――え、ルイ、さん……!?」 飛び込んだ褐色。シアは目を見開いた。その隣りを見ると、ナギの姿もある。 そのシアの声に反応したのか、ルイとナギはこちらを向いた。 「あ、やっと気づいてくれたー?」 にっこりと笑いながら軽く手を振るナギ。シアは若干引きつった笑みを浮かべると、自分へと近付いてきたルイに視線を移す。 シアのすぐ側に立っていたグレンは気を利かせたのかシアに背を向け、扉付近の壁へともたれ掛かった。 それを目で追い微笑むシアを見、ルイは布に見え隠れする口唇を動かす。 「さっきは、助かった。礼を言う」 ナギとは正反対に無表情のルイ。視線をルイに戻したシアはその違いに悲しげに微笑むと、目を閉じゆっくりと首を横に振った。 「痛い事を苦痛に感じない者なんて、いませんから」 ほんの少し、シアのシーツを握る手に力が籠もる。 ルイはさほど表情を変える事もなく、ただ少し頭を下げた。  
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