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しばらく歩いていると、あの木が"言って"いた通り、村が見えて来た。
自分の能力の事を、悟らせてはいけない。
それはこの17年の時の中で、学んできた事。
シアは改めて肝に命じると、その村に向かって歩み出す。
その時。
複数の殺気が背に突き刺さる。
「っ!」
息を呑んで後ろを振り向くと、数体の魔物の姿がそこにはあった。
外見は狼のようだが、尾は蛇の形をしている明らかに異形のモノ。
「しまった……!」
目元を歪めるシア。
彼女は戦闘に長けていない。身を守る術(すべ)は身に着けているものの、数が多すぎる。
目元に険を滲ませその魔物達を睨みつける。
その瞬間、その魔物達が一斉に飛び掛かって来た。
「っ――!」
咄嗟に結界を貼り防いだものの、長くは保(も)たない。魔物の攻撃は絶えず続く。
「くっ……」
額から一筋の汗が流れ落ち、彼女は止まない衝撃に目を閉じた。
――保たないっ……!
そう思った瞬間結界は音を立てて砕け散る。
障害の無くなった獲物に、魔物は一斉に飛び掛かる。
『死』
その言葉が脳裏を過ぎり目を固く閉じた、その瞬間。
「伏せろ!!」
切迫した空気の中、その者はその場に荒々しく、しかしそれが自然の如くなだれ込んできた。
風に靡(なび)く短い深紅の髪が、印象的だった。
一瞬の内に薙ぎ払われる魔物。あるモノは怯え、あるモノは逃げ出す。そして、たった一匹向かって来たモノに、その者は不敵に笑いかけ、一言。
「そーいう精神、嫌いじゃないんだけどな」
そう言うとその魔物を手に握る剣で横一閃に切りつける。
流れるような動作の一連を、シアは瞬きもせずただ見つめる他なかった。
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