Courtesies‐交歓‐

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  シアの言葉に、大して異議を唱える理由も無い為同意した一同は宿の前へと立っていた。 シアは数歩前へと進み出ると、ゆっくりとその瞼を下ろす。 「――聞きたい事があるの」 その場の誰に言うでも無く、凛と響き渡る声。その瞬間、シアの黒髪が風に靡き始める。 「かの森の主を殺めかけた者の行方を追っています。あの者達はどこへ?」 風は止む事無く、彼女の、そして後方に佇む者達の衣服を煽る。依然彼女の瞳は閉じられたまま、沈黙がその場を包む。 「――何を……?」 シアの力の一端しか知らないルイは、彼女の不可解な行動に思わず疑問の声を漏らす。そしてそれはナギも同様の気持ちだった。 グレンはそれに対し一瞬の間を置き、その口を開く。 「俺もまだ良くは知らねーけど……、アイツは自然と会話出来るって言ってた。多分今は……」 風が段々と強く凪いでくる。激しく煽られる前髪を鬱陶しげに抑え、ルイは口を開く。 「風、か」 「特異な能力だね……」 感心を含んだナギの呟き。 その時、唐突に風が止んだ。 「……ありがとう……」 透き通るようなシアの声が空気に浸透する。 微かに彼女の黒髪が宙へと舞い上がった。  
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