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野宿を覚悟し歩き出してから半刻程。先を歩いていたシアの足が不意に止まる。
一同が怪訝な表情を浮かべる中、シアは後方の3人を振り返った。
「ねぇ! 今更だけど、ちゃんと自己紹介してなかったよね?」
楽しそうに笑うシアの姿は、今自分達が置かれている状況を忘れさせるほど、陽気に満ちたものだった。
彼女には友と呼べる者がいなかった。ゆえに、今仲間がいるということたまらなく嬉しかったのだ。そして出たのが先ほどの言葉だった。
「あー……、そう言えばそうだね」
視線を空に、思い出したように呟くナギ。そんな彼の隣をすり抜け、ルイは目を閉じたままシアの目の前まで歩を進め、一言
「時間の無駄だ」
そう、言い放った。
風がゆっくりと凪ぎ、褐色と黒曜の髪が交わる。
見開かれた翡翠色に目もくれず、ルイはゆっくりと彼女を横切った。
「時間の、無駄……」
ぽつりとルイの言葉を繰り返すシア。
グレンやナギの表情が凍る中、その場の空気が、否、風が変わった。
「っ!?」
突如強風が吹き荒れ、その場の者達を襲う。ルイは思わず顔を腕で庇うように覆い、後方を振り向く。
直後、その隻眼を見開いた。ある事を理解した瞬間ルイの頭の中で警鐘が鳴り響く。
この風は自然と起こった者ではない。
段々と警鐘が大きくなる。ルイの頬には大量に冷たい汗が流れていた。
「時間の無駄……? 一緒に来るって言ったのはそっちでしょう……?」
おぞましい程にゆったりとした声音。
そう、風の中心にいた者は、シアだった。
グレン、そしてナギの表情が強張る。グレンに至っては引きつった笑みを浮かべその口端はひくついていた。
――やばい……キレた。
そうグレンが感じた瞬間、ルイが口を開いた。
「……自己紹介……します…………」
不意に風が掻き消え、沈黙が流れる。
シア、怒らすべからず。
それは、この瞬間に3人の暗黙の了解となった。
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