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「なあ、悟史お前さぁ…片思いって、経験あるか?」
「え…?あ、まぁ…。」
「俺なぁ…今までなかったんだよ、この二十三年間。いいな、この子って思った子とはだいたい付き合った。というか、いいな~って思うだけで「好きだな~」って子はいなかったんだよ。」
そう言って今度は味の薄くなっているであろう枝豆を口にする。
「そんな俺がな…?この歳になって初めて本物の恋ってのを体験したわけよ。でも結構脈ありだったんだぜ…?まあ、俺の勘違いだったんだけどな。その子のこと好きだって思うようになってから俺、変なんだわ。付き合ってるわけでもないのに、あの子と結婚したらー…とか、もし付き合ったらとか考えてやんの。気持ち悪いだろ?」
僕は首を横に振った。正樹さんは苦笑いして「いいよ」と言ったが決して嘘ではなかった。
嘘や、正樹さんの前だけでのいい顔とかそういうのではなく…本当に、気持ち悪いとは思わなかった。
そして、この時ようやく今回の飲み会が開催された理由がわかった気がした。
正樹さんはきっと、この話を誰かに聞いてもらいたかったのだ。
「笑顔が可愛かった。俺がさ、どうでもいいこと言ってもニッコリ笑ってくれた。好きだって言ってやろうと思ったんだ。でもなそのこがさ、俺の好きな笑顔で言うんだよ…『この間ヒロ君の家に泊まったときにね…』ってな。」
ヒロ…。
新人の者にはわからないが、その人はつい数ヶ月前まで同じバイト先で働いていた人だ。
そして正樹さんの幼馴染でもある。
入ったばかりの頃いろいろと世話にもなってすごくいい人だった。
ヒロさんは正樹さんとは正反対のタイプの人で、少し気が弱くていつも正樹さんが何かしたときのフォロー役なんかだった。
「その…ヒロさんは、知ってたんですか?その…正樹さんの気持ち。」
「多分、知らなかっただろうな。いや…知らなかったってほうがいいし、知らないなら知らないでこれからもずっと知らないままでいい」
「…僕も、同じ意見です」
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