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男は悠生の枕元に座った。 風呂にでも入ったのだろう。 少々青白い肌はほんのりピンクに色付き、艶やかな長い髪は今は肩を覆っている。 視線を男の顔に移す。 理知的で優しげな顔をしている、まだ若い男であった。 整った顔の造りは、テレビに出てくるイケメン俳優のようである。 男が口を開いた。 「気分はどうだ?」 穏やかで物静かな声だった。 「…大丈夫…。」 「どこか痛むところはないか?」 「……ない。」 男は「そうか。」と呟いて小さく笑った。 「ここは長州藩邸だ。 安心しなさい。」 悠生にはよく分からなかったが、取り敢えず頷いておいた。 「名は何というのだ?」 「秋山悠生。」 「そうか、“ゆうき”か。 俺は桂小五郎という。」 「かつらこごろう…?」 「そうだ。こう書く。」 男ー桂小五郎は部屋にポツンと置かれてあった文机にむかい、和紙にサラサラと“桂小五郎”と書き悠生に見せた。 「“ゆうき”とはどのような字だ?」 「うーん…。 分かんない。 “ゆうき”っていう漢字はまだ学校で習ってないんだ。」 「学校…? 寺子屋のことか?」 「違うよ。 学校は学校だよ。 僕、小学一年生なんだ。」 桂はしばらく考えるような仕草をした後、気を取り直し、質問を続けた。
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