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「あの…桂さん。
このこの子は一体…。」
「それが俺にも分からないんだよ。
先程から話が噛み合わなくてね…。
名前や住んでいる場所を覚えているから、記憶はちゃんとあるみたいなんだが…。」
桂は心底困ったような顔をした。
「そうですか…。
でも住んでいる場所が分かるんだったら、早く両親のもとに返してあげたらいいのではないですか?」
「そうだな。」
桂は大きく一つ頷いて、悠生の方へ向き直った。
「“ゆうき”の家は江戸のどこにあるんだ?」
「江戸じゃないよ、東京だよ。
東京の品川区にある。」
「「しながわく?」」
「桂さん、知ってます?」
「いや、聞いたことがないなぁ…。」
桂は今の山口県である長州の生まれであったが、少年時代は江戸に剣術留学をしていたため、江戸にはそれなりに詳しいとの自負があった。
しかし、桂の記憶の中に“しながわく”などという地名はない。
「“ゆうき”君、ご両親は何をしていらっしゃるの?」
幸の問いに悠生はハッキリと答えた。
「お母さんは主婦でお父さんはサラリーマンだよ。」
何の職業だ…?
二人は同時に思った。
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